この記事はオーバル中目黒整形外科 院長・高島東暉先生(日本整形外科学会専門医)が監修しています。
筋膜リリース中の痛みには、効いている範囲の「痛気持ちいい」と、すぐに中止すべき「危険な痛み」が混在しています。両者は強度・部位・原疾患の3要因で見分けられ、特にVAS(痛みの数値評価)が4以下かどうかが実践的な判断軸の一つとされています。本記事では整形外科専門医の視点から、安全に続けるための数値基準、やってはいけないケース、受診すべきサインを順に解説していきます。
なお、本記事で扱う「正常な範囲の痛み(軽い違和感・痛気持ちいい)」と「異常な痛み(鋭い痛み・しびれ・電撃が走るような感覚などの神経症状)」は明確に区別しなければなりません。後者を感じた場合は、強さに関係なくすぐに中止し、必要に応じて医療機関を受診してください。
この記事を読むことで、以下の3点が整理できます。
この記事でわかること
- 筋膜リリースで痛みが出る3つの原因と、それぞれの見分け方
- 「痛気持ちいい」と「危険な痛み」を客観的に分ける基準
- すぐ中止して受診すべき具体的サインと、安全に継続するための強度・時間の目安
筋膜リリースで痛みを感じる3つの主な原因

筋膜リリースで生じる痛みの原因は、大きく分けると「圧の強すぎ(強度過多)」「神経や血管が浅い部位への誤った圧迫」「筋膜由来ではない痛みへの誤適用」の3つに分類できます。多くの場合、原因は1つではなく複数が重なっていますが、まずは自分の痛みがどの原因に近いかを把握することが、ケアを「中止する」「継続する」「受診する」のどれを選ぶかの最初の分岐点になります。
自宅でフォームローラーやマッサージガンを使う方が「いつもと違う痛み」を感じたときに、どこに原因があるかをチェックできるよう、3つの原因を臨床的な視点から解説します。
原因①:圧の強度過多による微細組織損傷
「強く押すほど効く」という誤った認識は、筋膜リリースにおいては正しくありません。フォームローラーやマッサージガンに体重を完全に預けて長時間圧迫すると、毛細血管や微細な筋線維が傷つき、内出血や強い炎症性の痛みを引き起こす原因になります。
実際によくある失敗パターンが、体重を完全にローラーに乗せたまま、30秒以上も同じ部位を押し続けてしまうケースです。これにより翌日に皮下出血(あざ)ができやすく、さらに目に見えない深部組織でも微細な損傷が起きていることが報告されています。
安全に行うための目安は、1部位あたり30〜60秒以内です。位置を少しずつずらしながら圧をかけ、痛みが急に強くなったらすぐに体重を抜くように心がけましょう。マッサージガンを使う場合も、同じ場所に当て続けるのは避け、1部位あたり15〜30秒程度を上限に、滑らせるように動かすのが安全な使い方です。
「翌日になってもあざが残っている」「触るとピンポイントで鋭く痛む場所ができた」という場合は、強すぎる圧によって組織が傷ついている典型的なサインです。
原因②:神経・血管が浅い部位への誤った圧迫
筋膜リリースには、行ってはいけない「危険ゾーン」が存在します。
- 膝の裏(膝窩)
- 脇の下(腋窩)
- 首の前面
- 肘の内側
これらの部位は、重要な神経や血管が皮膚のすぐ下を通っているため、強く圧迫するとしびれや血流障害を引き起こすリスクが非常に高くなります。
具体的にありがちな失敗例として、太もも裏の筋肉(ハムストリングス)をほぐすつもりが、そのまま膝の裏までローラーを転がしてしまうケースが挙げられます。膝の裏には「脛骨神経」や「膝窩動静脈」が走行しているため、強く圧迫するとしびれが生じることがあります。同様に、肩こりを解消しようとして首の前面(前頸部)にマッサージガンを当てるのも絶対に避けるべき行為です。頸動脈や迷走神経などの重要な組織が浅い位置にあるためです。
安全な部位を選ぶ基本は、骨の出っ張りや関節の隙間、脈が触れる場所を避け、筋肉の「腹」(中央のふくらんだ部分)を狙うことです。たとえば膝の裏側をすっきりさせたい場合は、太もも裏(坐骨と膝の中間あたり)か、ふくらはぎの中央寄りに分けて圧をかけることで、神経や血管への直接的な圧迫を避けやすくなります。
もし、しびれやピリッとした電撃のような痛み、手足の冷感が生じた場合は、部位選択を間違えているサインです。ただちに中止してください。これらの神経症状が数時間〜数日経っても改善しない場合や、繰り返し出現する場合は、神経へ持続的な刺激が加わっている可能性があるため、整形外科の受診を検討しましょう。
原因③:そもそも筋膜由来でない痛みへの誤適用
意外と見落とされがちなのが、「そもそも筋膜の問題ではない痛み」に対して筋膜リリースを繰り返してしまうケースです。椎間板ヘルニア、仙腸関節障害、変形性関節症、関節リウマチなどは、筋膜ではなく別の場所に主因がある疾患です。これらに対して筋膜リリースを行っても症状は改善しないばかりか、かえって悪化させてしまう恐れがあります。
日本整形外科学会が示す「腰痛診療ガイドライン」によれば、腰痛の原因は筋・筋膜によるものだけでなく、椎間板や神経根、仙腸関節に由来するものなど多岐にわたります。そのため、原因を確かめないまま一律のセルフケアを行うことは推奨されません。
- 腰痛が2〜3週間以上続いている
- 特定の動作(咳、くしゃみ、前屈など)で痛みが強くなる
- 太ももや足にしびれが響く
このような症状がある場合は、筋膜リリースで対処しようとせず、まずは整形外科で画像検査などを含む適切な診断を受けることが先決です。「ケアを続けているのに痛みが減らない」「むしろ痛む範囲が広がってきた」と感じたら、筋膜以外の原因が背景にあるサインかもしれません。自己判断でセルフケアを継続せず、専門医の診察を受けるようにしてください。
「痛気持ちいい」と「危険な痛み」を見分ける判断軸
ここまで述べた3つの原因を念頭に置いたうえで、実際に「いまの痛みは続けてよいのか」を判断するには、感覚だけに頼らず客観的な数値指標を活用するのが有効です。臨床現場で用いられているのがVASやNRSという痛みの定量評価スケールで、これを家庭でのセルフケアにも応用することで、危険ゾーンへの踏み込みを防ぎやすくなります。
痛みの強度を客観的に測るVAS/NRSとは
VAS(Visual Analog Scale)は、0(無痛)から10(想像しうる最大の痛み)の連続線上で痛みを数値化する評価法であり、NRS(Numerical Rating Scale)は0〜10の11段階の数字で痛みの強さを答える評価法です。いずれも臨床現場で広く用いられている標準的な痛み評価指標で、医師が患者の主観的な痛みを共有可能な数字に置き換える際に使われています。
セルフケアでVASやNRSを取り入れる最大のメリットは、「痛気持ちいい」「効いている」「強すぎる」といった曖昧な感覚を、自分の中で一貫した基準にできる点です。たとえば「今日はVAS 3で心地よくできた」「昨日はVAS 7まで上げてしまい翌日にあざが出た」と振り返ることで、自分に合った安全な強度の限界を把握しやすくなります。
家庭で応用する際は難しく考える必要はありません。「痛みが全くない状態を0、これ以上耐えられない最大の痛みを10」とイメージし、今の痛みがいくつくらいかを数字で表すだけで十分です。
安全域・要注意域・中止域の目安
実際にVAS/NRSを使ってセルフ筋膜リリースを行う際の、ゾーン別の判断目安を整理すると以下の通りです。
| ゾーン | VAS/NRSの目安 | 判断 |
|---|---|---|
| 安全域(痛気持ちいい) | 3〜4 | 継続可。ただし呼吸が止まる強度はNG |
| 要注意域 | 5〜6 | 強度を下げる、当てる角度を変える |
| 中止域 | 7以上 / 鋭い痛み・しびれ | 即中止 |
特に重要な原則は、「VAS 7以上の痛み」または「鋭いピンポイントの痛み・しびれ」を伴う場合は、強度に関係なく即座に中止するということです。
一般的な安全域は、VAS 3〜4の「痛気持ちいい」と感じる範囲です。VAS 5〜6は許容できることもありますが、強度や当てる角度の見直しが必要な「要注意サイン」となります。VAS 7以上の続く痛み、刺すような痛み、電気が走るような感覚、ジワジワとしたしびれは、組織が傷ついていたり神経を刺激したりしている可能性が非常に高いと言えます。これらの異常な痛みは、軽い違和感や鈍い圧迫感とは性質が異なるため、すぐに中止して必要に応じて整形外科の受診を検討してください。
もう一つの実用的な基準として、「呼吸が止まる強度はNG」という分かりやすいルールもあります。痛みが強すぎると、人間は反射的に息を止めてしまうため、「自然に深い呼吸を続けられるかどうか」が安全な境界線の目安になります。
「痛気持ちいいかどうかわからない」と迷ったときは、その圧をかけたまま深呼吸を5回繰り返してみてください。もし息が詰まるようであれば、それは強すぎるため、強度を下げるべきという判断材料になります。
揉み返し・DOMS(遅発性筋肉痛)との鑑別
筋膜リリースを行った翌日以降に痛みが出た際、最も多く混同されるのが「DOMS(遅発性筋肉痛)」と「組織の損傷」の違いです。
DOMSは、運動や圧による刺激の後、通常24〜72時間でピークを迎えてからゆっくりと和らいでいく筋肉痛のような鈍痛です。「広い範囲にじんわりと広がり、動かすと痛むが安静にしていれば楽になる」というのが典型的な特徴です。
一方で、筋膜リリースによって組織が傷ついている(損傷している)ことを疑うサインには、局所の鋭い痛み、内出血の拡大、しびれ、押したときに「ここが痛い」と指でピンポイントでさせるような強い圧痛などが挙げられます。
見分けるためのチェックポイントは次の3つです。
- 痛みの広がり方:面で広がる鈍痛ならDOMSの可能性が高く、点で限局する鋭い痛みなら組織損傷が疑われます。
- 経過:48〜72時間以内に軽快する傾向があればDOMS、それ以上長引いたり悪化したりするなら組織損傷を疑います。
- 伴う症状:内出血が広がってくる、しびれや力が入らない(脱力感)といった症状がある場合はDOMSではないため、中止や受診の判断が必要です。
迷ったときは、「広く鈍く、軽くなっていくならDOMS」「狭く鋭く、長引いて悪化するなら組織損傷」と覚えておくと、家庭でもスムーズに判断しやすくなります。
筋膜リリースをやってはいけない人・部位(禁忌)

VASでの自己判断以前に、そもそも筋膜リリースを行うべきではない状態や部位があります。これらの禁忌に該当する場合は、たとえ「気持ちよさそう」と感じても実施は避け、必要に応じて医療機関に相談することが安全側の選択です。実施前に1項目ずつ確認することをお勧めします。
禁忌は大きく「全身状態の禁忌」と「局所の禁忌」に分けられます。日本理学療法士協会が示す徒手療法に関する一般的な指針や、日本整形外科学会関連資料に基づき、特に注意すべき項目をまとめます。
全身状態の禁忌
体全体の状態として、以下に該当する場合は筋膜リリースを避けてください。
- 急性期の炎症がある部位:赤み、熱感、腫れがある場所は炎症の真っ最中です。圧を加えると炎症を悪化させる恐れがあります。
- 骨折・打撲・捻挫の急性期:けがをしてから「72時間以内」が目安です。組織が修復しようとしている大切な時期なので、摩擦や圧迫などの刺激は治癒を妨げてしまいます。
- 深部静脈血栓症(DVT)の既往・疑い:下肢(足)の深いところにある静脈に血栓(血の塊)がある状態で強く圧迫すると、血栓が剥がれて血流に乗り、肺の血管に詰まってしまう(肺塞栓症)重大なリスクがあります。長時間のフライト後や、片方の足だけが不自然に腫れている場合は特に注意が必要です。
- 抗凝固薬・抗血小板薬を服用中:ワルファリンやDOAC、アスピリンなど「血液をサラサラにする薬」を飲んでいる方は、皮下出血(あざ)や血腫ができやすいため、自己判断での強いマッサージは避けましょう。
- 悪性腫瘍(がん)のある部位:腫瘍がある場所に直接圧迫を加えると、病変の進展や血行性の転移を助長する可能性が指摘されているため、原則として直接的な機械の刺激は避けます。
- 重度の骨粗鬆症(こつそしょうしょう):強い圧によって圧迫骨折を起こすリスクがあるため、特に背骨や肋骨のまわりへの強い圧迫は避ける必要があります。
- 妊娠中:特に、お腹まわりや腰への強い圧迫は避け、実施する前には必ず主治医に相談してください。
局所の禁忌(避けるべき特定の部位)
体の状態に関係なく、ピンポイントで避けるべき「危険な場所」です。
- 皮膚疾患のある部位:湿疹、感染症、傷口、帯状疱疹(たいじょうほうしん)後の皮膚が敏感になっている場所などは、感染の拡大や皮膚トラブルの悪化を招くリスクがあります。
- 神経・血管が浅い部位:先ほど解説した、膝の裏、脇の下、首の前面、付け根(鼠径部)、肘の内側などは、しびれや血流障害、血管を傷つけるリスクがあるため、強い圧をかけてはいけません。
- 人工関節・インプラントの直上:機械的な振動や強い圧によって、インプラント周囲の組織に炎症を引き起こす可能性があるため、主治医の指示がない限り行わないのが原則です。
上記のチェックリストに1つでも当てはまる項目がある場合は、自己判断でのセルフケアは行わず、まずは整形外科の医師や主治医に相談してください。
痛みが続く・悪化したときの対処と受診目安
すでに筋膜リリース中、あるいはケアの直後に痛みを感じてしまった場合、「セルフケアで様子を見ていいのか」「整形外科を受診すべきか」の判断に迷うかと思います。その際は、曖昧にせず「痛みが続いている日数」と「一緒に起きている症状」の2つの視点から客観的に判断しましょう。
まずやるべきこと(最初の24〜48時間)
筋膜リリース後に痛みや違和感が出た直後、最初の2日間で行うべき初期対応は次の3つです。
- 該当部位へのケアをただちに中止する:「明日になれば良くなるかも」と続けてしまうと、傷ついた組織の損傷をさらに悪化させてしまいます。
- 必要に応じてアイシング(冷却)を行う:1回あたり15〜20分を目安に、タオルで巻いた保冷剤などを当てます。皮膚の凍傷を防ぐため、氷や保冷剤を直接肌に当てるのは避けましょう。また、1〜2時間以上の連続したアイシングは血流を低下させてしまうため逆効果です。
- 安静と十分な休息を確保する:痛みがある部位を酷使するような運動や負担は控え、いつもより睡眠時間を多めにとって体の回復を促しましょう。
これらの対応を行い、48時間(2日)が経った頃に痛みが軽くなっていれば、セルフケアの範囲内(DOMS=筋肉痛)であった可能性が高いと言えます。しかし、次に挙げるサインが見られる場合は、医療機関での診察が必要なゾーンに入っています。
整形外科を受診すべき具体的サイン
以下のような症状がある場合は、自己判断での様子見をストップし、整形外科の受診を検討してください。
- 痛みが72時間(3日)以上経っても軽くならない:一般的な筋肉痛であれば3日以内に和らぎ始めるため、それを超えて続く痛みは別の原因(組織の損傷など)が疑われます。
- しびれ・脱力・感覚の異常がある:神経が傷ついている、または圧迫されている可能性があり、放置すると後遺症につながるリスクがあります。
- 内出血(あざ)が広範囲に広がっている:時間の経過とともに対象のあざが広がる場合は、深部での出血や、血が止まりにくくなっているサインです。
- 発熱・赤み・強い熱感がある:感染症や、強い急性炎症が起きていることが疑われます。
- 同じ場所の痛みが何度も再発する:筋膜ではなく、関節や骨など別の原因が隠れている可能性が非常に高い状態です。
受診する際は、以下の5つのポイントをメモにまとめて医師に伝えると、診断がとてもスムーズになります。
- 使用した道具(フォームローラー、マッサージガン、テニスボール、あるいは施術院でのケアなど)
- 痛みの強さ(VASやNRSの数字で「10段階のうち◯くらい」と表現できると理想的です)
- ケアの頻度(週に何回、1回あたり何分くらい行っていたか)
- 痛みがいつ出たか(ケアの最中、直後、翌日、あるいは数日後か)
- その他の症状(しびれ、力が入らない、あざ、発熱などがあるか)
これらの情報は、医師が「どこで何が起きているか」を正確に評価するための貴重な手がかりになります。
安全に筋膜リリースを行うための強度・時間・頻度

ここからは、筋膜リリースを安全に続けたい方向けに、強度・時間・頻度、そして使うツール別の具体的な目安を解説します。すでに紹介した「VAS」による判断軸とあわせて活用することで、効果と安全性のバランスを上手にとれるようになります。
これらは絶対的な数値ではなく、あくまで「これ以上は危険という上限値」や「最低限必要な回復時間」として捉え、ご自身の体調に合わせて調整することが大切です。
強度の目安
セルフ筋膜リリースの強度は、VAS 3〜4の「痛気持ちいい」を上限にするのが基本です。VAS 5を超える強さは、得られる効果に対してトラブルが起きるリスクが急増するゾーンのため、自己流で行うセルフケアではおすすめできません。
実践的なチェックポイントとして、ケアをしながら以下の3つを確かめてみてください。
- 呼吸が止まっていないか
- 圧をかけている間に、痛みのあまり表情がゆがんでいないか
- 翌日にあざや、ピンポイントで痛む場所(限局痛)が残っていないか
これらがすべてクリアできている範囲であれば、強度設定としては十分に安全と言えます。
時間と頻度の目安
時間については、1部位あたり30〜60秒、全体でも1回5〜10分程度が一般的な目安です。海外の系統的レビュー(Beardsley Cら, 2015)でも、セルフ筋膜リリースの効果は短時間の圧刺激でも十分に得られると報告されており、長い時間押し続ければ効果が高まるわけではないことが分かっています。
頻度については、同じ部位に毎日強い圧をかけるのは避け、最低でも24時間は間をあけて筋肉を回復させる時間を設けましょう。トレーニング後のリカバリーとして行う場合は、ストレッチや軽い有酸素運動と組み合わせることで、筋膜だけに負担が集中するのを防げます。
「短時間で行う」「適度な強度を守る」「回復時間をしっかり確保する」の3点を守ることで、過剰な刺激による組織損傷のリスクを大幅に下げることができます。
ツール別の注意点
使う道具によって気を付けるべきポイントが異なるため、それぞれの特性を理解しておきましょう。
- フォームローラー:体重移動はゆっくりと行い、骨が出っ張っている場所(背骨、骨盤、膝、肘など)の真上は避けます。背中を転がす場合は、肩甲骨から腰の上のあたり(胸椎の筋肉がある部分)にとどめ、くびれのある腰椎部分への直接の圧迫は避けましょう。
- マッサージガン:振動するアタッチメントは、骨や神経、関節の真上を避け、必ず筋肉の「腹(中央のふくらんだ部分)」に当てます。同じ場所に当て続けるのは避け、優しく滑らせながら使うのが基本です。また、電源を入れたまま首の前面や足の付け根(鼠径部)に近づけるのは絶対に避けてください。
- テニスボール・専用ボールなど:ボールタイプは圧が一点に集中するため、目に見えない微細な損傷を起こすリスクが比較的高いツールです。そのため、1部位15〜30秒程度の短時間にとどめ、こまめに位置を変えながら使うのが安全です。
どのツールにも共通する鉄則は、「鋭い痛みが出たらすぐに中止する」「翌日にあざや痛みが残った部位は、治るまで数日休ませる」の2点です。
痛みの根本対処としての医療的選択肢
セルフケアを工夫しても痛みが改善しない場合や、何度も同じ場所の痛みに悩まされている場合は、原因をはっきりさせて医療的なアプローチを検討すべき段階かもしれません。整形外科では、筋膜が原因の痛みに対しても複数の治療法(保存療法)を用意しており、これらを組み合わせることで、セルフケアだけでは届かなかった根本的な原因へアプローチできます。
整形外科で行われる保存療法
整形外科における、筋肉や筋膜の痛みに対する主な治療法には以下のような選択肢があります。
- 理学療法士による徒手療法・運動療法:専門的な体の評価に基づき、解剖学的に正しいアプローチを行います。セルフケアでは手が届かない部位のケアはもちろん、姿勢や動きの癖といった根本的な原因に踏み込んだリハビリが可能です。
- 体外衝撃波治療:なかなか治らない腱の痛みや、慢性的になってしまった筋・筋膜の痛みに対して用いられる物理療法(機器を使った治療)の一つです。
- ハイドロリリース(筋膜リリース注射):超音波(エコー)で確認しながら、筋膜の間に生理食塩水などを注入する手技です。
- PFC-FD療法などの再生医療系治療:ご自身の血液から抽出した成長因子を用いる先進的な治療法です(適応は医師が判断します)。
これらの治療は、すべての症例で一律の効果を保証するものではありません。医師が原因をしっかりと評価したうえで、一人ひとりに合わせて適応を判断します。症状や原因によって期待できる改善の程度は異なります。
ハイドロリリースとは
ハイドロリリースは、近年注目されている筋膜の痛みに対する治療法の一つです。日本整形内科学研究会(JNOS)でも示されている通り、超音波ガイド下で筋膜の間に薬液(主に生理食塩水)を注入し、筋膜の癒着(くっつき)を物理的に剥がして滑りを良くすることを目的とした治療法として臨床に位置づけられています。
具体的には、超音波エコーの画面で筋膜の重なりや癒着が疑われる部分をリアルタイムで確認しながら、細い針を使って薬液を注入します。これにより筋膜の動きがスムーズになることが期待されています。
注意点として、ハイドロリリースはすべての痛みに万能なわけではなく、事前の正確な診断や、エコーの扱いに習熟した医師による丁寧な手技が必要です。検討される場合は、対応している医療機関にあらかじめ詳細を問い合わせて確認することをおすすめします。
受診を検討すべきタイミング
「いつから病院に行くべきか」という目安は、以下のいずれかに当てはまったときです。
- セルフケアを2〜3週間続けても痛みが一向に改善しない
- 同じ部位の痛みが、治っては痛むのを何度も繰り返す
- 痛みに加えて、しびれ・脱力・感覚の異常などの神経症状がある
- 歩く、階段を上り下りする、デスクワークの姿勢を保つなど、普段の生活に支障が出ている
セルフケアで良くならない、あるいは痛みを繰り返す場合は、自己判断を続けるよりも整形外科で原因を調べてもらうのが一番の近道です。原因が筋膜によるものなのか、あるいは背骨や関節、神経によるものなのかをレントゲンやMRIなどの画像検査も含めて確認することで、より安全で効率の良い対処ができるようになります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 筋膜リリースは痛いほど効くって本当ですか?
A. 痛みの強さと効果は比例しません。 VAS 3〜4の「痛気持ちいい」範囲が、安全かつ効果が期待できる目安です。10段階中7以上の強い痛みを我慢して続けると、毛細血管や筋肉の繊維を傷つけてしまい、かえって回復を遅らせる原因になります。
Q2. 太ももの外側(腸脛靭帯付近)が特に痛いのはなぜですか?
A. 腸脛靭帯(ちょうけいじんたい)はもともと伸びにくい頑丈な組織であり、直接強く押しすぎると炎症や内出血を起こしやすい場所だからです。 太ももの外側を直接ゴロゴロと強くほぐすよりも、そこにつながっている大腿筋膜張筋(骨盤の前外側)や大殿筋(お尻の筋肉)を優しく緩める方が、結果的に太もも外側の突っ張り感を効率よく解消できます。
Q3. 翌日に痛みやあざが残ります。このまま続けてよいですか?
A. いったんお休みしてください。あざが広がったり、痛みが3日(72時間)以上残ったりする場合は、整形外科の受診を検討しましょう。 通常の筋肉痛(DOMS)であれば2〜3日以内に軽くなりますが、それを超えて悪化していく痛みは、組織が傷ついているなど別の原因が疑われます。
Q4. ハイドロリリース注射は痛いですか?
A. チクッとした痛みや、一時的な圧迫感を感じることがあります。 超音波で確認しながら非常に細い針を使用するため、注射を刺す瞬間にチクッとする程度であることが一般的です。また、薬液が入る際にツーンとした圧迫感を覚えることもあります。痛みの感じ方や適応の可否には個人差があるため、実施している医療機関で個別によく相談してください。
Q5. 妊娠中や生理中でも筋膜リリースをしてよいですか?
A. 妊娠中の方は実施前に必ず主治医にご相談ください。特に腹部や腰部への強い圧迫は厳禁です。 生理中については、体調に問題がなければ無理のない範囲で行っても大丈夫ですが、少しでも強い不快感やだるさがある場合はお休みしましょう。
Q6. 整体や整骨院の筋膜リリース施術で痛いのは普通ですか?
A. 強い痛みを我慢する必要はありません。正常な反応とは言えないため、すぐに施術者に伝えましょう。 施術を受ける際は「10段階のうち◯くらい痛いです」と具体的に伝え、強さを調整してもらってください。もし施術を受けた後に痛みが長引いたり悪化したりする場合は、我慢せず整形外科で診察を受けるようにしてください。
まとめ:痛みは「強度・部位・原因疾患」の3つで判断する
筋膜リリースで生じる痛みは、「強すぎ(強度過多)」「場所の間違い(部位選択ミス)」「筋膜以外の原因(筋膜外要因)」の3つに整理して考えることができます。そして、VAS 3〜4(痛気持ちいい程度)を上限とする数値基準を持っておくことで、安全な範囲を自分で判断できるようになります。
神経や血管が浅いデリケートな部位や、急な炎症、血液をサラサラにする薬を飲んでいるなどの「禁忌」に当てはまる場合は実施を控えましょう。また、3日以上長引く痛みやしびれ、広がるあざが見られる場合は、体が発している「整形外科受診のサイン」です。
セルフケアで改善しない痛みに対して無理に自己判断を続けるのは禁物です。理学療法やハイドロリリースといった専門的な選択肢も含め、まずは整形外科へお気軽に相談してください。
※本記事は一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断や治療に代わるものではありません。記載内容はすべての方に対する症状の改善や治療効果を保証するものではなく、効果には個人差があります。痛みやしびれ、神経症状などがみられる場合は、速やかに専門医を受診してください。
参考文献
- 公益社団法人 日本整形外科学会 公式サイト https://www.joa.or.jp/
- 公益社団法人 日本理学療法士協会 公式サイト https://www.japanpt.or.jp/
- Beardsley C, Škarabot J. "Effects of self-myofascial release: A systematic review." J Bodyw Mov Ther. 2015;19(4):747-758. (PubMed ID: 26592233) https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26592233/
- 厚生労働省 医療広告ガイドライン https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000927804.pdf
- 日本整形内科学研究会(JNOS) https://www.jnos.or.jp/
- 日本整形外科学会 腰痛診療ガイドライン https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00498/
監修者情報
オーバル中目黒整形外科 院長
高島 東暉(たかしま もとあき)
略歴
資格













